消費市場としての東南アジアで必要なSCM
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日本語 / Japanese SCM
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SRM、CSRとしてのSCM
私は誰かの生き血をすすっているのか?
2014年現在で「高品質・高価格」の評価をほしいままにしているApple社は工場を持っていない。最終完成物ですらサプライヤーからの供給に頼っている。今どき、一つの会社の中で原材料から最終完成物まで生産していることは、まずない。一つの商品は、数えきれないほどのサプライヤーとの関わりがあるのが普通である。そしてそれは日々高度化しており、今眼の前にある商品が、どこの誰がどういうふうに作ったものなのか、見ても分からなくなっている。
しかしそのサプライヤーが、環境破壊や児童労働や汚職など、最終消費者の倫理観や商慣習から見てとても許容できない生産をしていた場合はどうなるだろうか?
答え:最終完成物の販売者の信用が失墜する。
その具体例が、1990年代なかばに、スポーツ用品のナイキが児童労働をさせていたとして不買運動に発展した事例である。
「どこの誰がどういうふうに作ったかわからない」からこそ、最終的なラベルであるブランドに、担保料としてのプレミアム価格を認めているのである。倫理的にこれを裏切ったわけだから、これは消費者から見れば、プレミアム分のお金をだまし取られた詐欺であるといえる。だから社会問題になった。
これを消費者の観点から説明すれば、CSR(Corporate Social Responsibility)となるし、サプライヤーをいかに管理するかという観点で見るとSRM(Supplier Relationship Management)となる。
自分の履いている靴や、自分の食べているものが、地球上のどこかの誰かの悲惨な搾取の上に成り立っていると思うと、気持ちのよいものではない。そんな心配からfreeであることは、これも消費者にとってのValueであり、原材料からそれを保証していくのは、たしかにこれもSupply Chain Managementというにふさわしい。
ベトナムにおけるSRM
日常生活のクオリアの高さ
しかしこの価値観は、いかにも先進国的ではある。一人あたりGDPが高いからこそ、そんな倫理的な心配ができるのであって、要は贅沢の一種というわけだ。
この意見は一理あるとは思うが、それだけでは説明できないところがある。
ベトナムの一人あたりGDPは3,318ドル。31,425ドルの日本の約1/10である。
これだけで見ると、ベトナムの生活水準は日本の1/10ということになるが、ベトナムに住む日本人として、それはどうも納得がいかない。この国は、生活のクオリア(感情的な質感)が、一人あたりGDPに比して高いように思う。
私は、GDPによる比較を無視して、「貧しい国こそ人間らしく生きていてすばらしい」などと言いたいわけではない。
あくまで、消費者のValueはどこにあるかという話である。
車が買えるかとか、ローンが組めるかということであると、世界銀行のマクロ経済統計のままであろう。
しかし、日々の生活において、なににどのようにお金を払うかという判断において、品質やクオリアやQOL(Quality Of Life)への欲求が日本の消費者の1/10かというと、そういうようには思えないのである。
レベルの高すぎるホーチミン市のカフェ
写真は、この記事を書くにあたって、市中心部でも高級住宅地でもない、ごく普通のホーチミン市の一角で、そのあたりを数分歩いて撮影してきた、市井のカフェである。いくらベトナム人がカフェ好きで、コーヒー豆生産世界2位であるからといって、店の作りやデザインが凝りすぎているように思う。日本で一人あたりGDPが3000ドル台だった頃というと1960年ごろになるが、昭和35年に写真のような喫茶店が、そこらへんのまちなかにあっただろうか。
日本とベトナムの違いというよりも、1960年と2014年の違いだと思うが、生活のクオリアに対する要求水準が、はるかに高くなっていると思う。
カフェの比較は乱暴だというのならば、「食の安全」はどうだろうか。
前項で紹介した、田舎から食品を送ってもらっている事例では、その理由の一つが食の安全であった。日本では中国の大気汚染や農薬野菜が有名だが、それは中国だけではなく、ここベトナムでもやはり問題である。
それはカフェとひとつづきである。なぜなら、同じドルでも1960年の日本の喫茶店と2014年のホーチミンのカフェの見た目が違うというのは、一ドルあたりの生産性があがったということだ。それはこの地球に「世界の工場」が増えたことの直接的な結果である。しかしそれは、大量生産に伴う歪みも産んだわけで、大気汚染や農薬野菜は生産性向上のコインの裏表である。
ミドルリスク・ハイリターンのためのフルスクラッチ開発
これはなにを意味するかというと、生産性が向上した分だけ、今の時代の高度成長期の人々は、マルローの自己実現理論のピラミッドを駆け上がる角度も高いということだ。
食の安全にかけては、ベトナム人消費者は、もう指をかけている。10年前は誰も気にしなかったかもしれない。しかし今は違う。そして10年後は、今のホーチミン市民が「カフェが格好いいなんか当たり前でしょ。座ってコーヒーさえ飲めればいいなんて(笑)」というのと同じになると、私は思う。
そしてその先は、今は先進国の金持ちの贅沢の一形態でしかないような「倫理的なSRM」までも、一気に駆け上がると思う。
それに要する時間は、10年かもしれないし、3年かも知れない。逆にそこまで到達しないかもしれない。
しかし、潜在的ニーズの方向がそうならば、いち早くそのニーズを具現化し、ブランド化できた商品は、一歩も二歩も先んじることになる。ハイリスクだが、ハイリターンだ。
考えて見れば、ハイリスクではないかもしれない。少なくとも、商品の値段がやや高めという以外のリスクらしいリスクはない。ミドルリスクというところだろうか。
IT業界に話を戻して言うと、食品のトレーサビリティ、食品加工における安全性確保、流通過程における環境や社会的弱者への配慮、決済や返品における消費者保護、そういったことを先んじて行うだけでかなりのアドバンテージが稼げると思う。そしてそれは、前項で見たとおり、既存のシステムを利用しようとすると、ありものでいいものがない。しかし腹をくくって自前でフルスクラッチ構築をする気になれば作れるものだ。
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