知られざるベトナムのネット通販について細かく語る(3) – lazada.vn

Publish: : 日本語 / Japanese

オーソドックスな買い物を安心安全に行いたいと、ベトナム最大手のネットショップlazada.vnでCanonのプリンタを買ってみた。価格もデリバリの品質も概ね満足なのだが、いずれ大資本が上陸した時、lazada.vnは厳しくなるだろう。そのときどうやって生き残ればよいか考えた。

なぜlazada.vnか

信頼できない市場

ベトナムネット通販調査シリーズの第3回では、lazada.vnという国内最大手のネットショップで、プリンタを買ってみる。極めてオーソドックスな買い物であると言える。

第1回の記事でも引用したVietnam e-Commerce Report 2013によると、ベトナムの消費者がネット通販をしない理由は、下記のとおり。

  • 品質を確かめられない 59%
  • 実店舗のほうが簡単で早い 45%
  • 売り手を信用できない 41%
  • 十分な情報がない 38%
  • クレジットカード等の決済手段がない 37%
  • ネットで売ってない 26%
  • 試したことがない 22%
  • 操作が複雑 20%
  • ネット接続が貧弱 6%
  • 技術的にネット通販を利用できない 6%

(出典:Vietnam e-Commerce Report 2013)

売り手と買い手の間の信頼関係の不足が主な原因であることが分かる。IT屋がすぐに思いつきそうな操作や接続といったテクニカルな問題は副次的なものにすぎない。

なぜこうなったかの考察は、本記事後半で書くとして、とりあえず今は、「低信頼性回避」をメインテーマとしたいと思う。

低信頼性回避

ショップに対する不信感や、商品に対する不信感を、あまり抱かなくて良いような買い物をしたい。

そのため、国内最大手のショップlazada.vnで、日本製の新品コンピュータ機材を買ってみよう。聞いたことの無いようなショップは怖いし、目利きが必要となるような商品も買いたくない。

今回購入対象にしたのは、Canon PIXMA iP2770
プリンタは本体価格よりもインク代で稼ぐモデルになっているので、価格は安い。インクはちゃんと購入できるのか? というのは疑問だが、それはまた別の課題という事で。

lazada.vnでの購買エクスペリエンス

商品探索

http://www.lazada.vn/may-in-muc-in-moi/

http://www.lazada.vn/may-in-muc-in-moi/

lazada.vnを開き、PC&Laptopからプリンタとインクを選ぶ。
今はちょうどワールドカップが開かれている時期だが、それに引っ掛けたセールキャンペーンをやっており、canonやHPといった有名メーカーの商品が並んでいる。割引率は20%ていどが多い。画面を見てみると、ベトナム語が読めなくてもほとんど意味を読み取れるのではないかと思う。

必要だが十分とは言えない商品アイテム数

プリンタのアイテム数は60機種(インクジェット27種、レーザー33種)。CanonやHPやbrotherの現行新商品の総計はこれぐらいだろうか。
とりあえず有名メーカーのエントリー商品が欲しいと思っている今回の私のニーズにはこれで十分だが、例えば日本Amazonの同種のカテゴリにおけるアイテム数が3244機種であることを考えると、非常に少ないとは言える。
例えばlazadaではプロッタを売っていなかった。

驚きの全国無料配達

商品を選んでショッピングカートに入れ、配送手続きをするまでの流れはAmazonや楽天市場と大差ない。
特筆すべきは、全国無料配達を実現していることである。無料と言っても最初から配送費が含まれているわけであり、かつ、日数の期限は決めていないわけだが、それにしても、ラオス・中国国境に近い、古戦場のディエンビエンフーであっても、USB一本を無料配達してくれるというのは、考えてみればすごいことだと思う。

huyện Mường Ảng, Điện Biên, Việt Nam

huyện Mường Ảng, Điện Biên, Việt Nam

決済は、カードも選べるのだが、Cash on Delivaryにした。

早いけどしまりのない配達

発注後、lazada.vnから電話がかかってきて、配達日を調整する。
火曜日に発注したのだが、金曜日または土曜日ということだった。
実際は木曜日ぐらいには入荷したらしく、電話が何本もかかっていたが、私が電話を取れなかったり、英語での意思疎通が難しかったりで、翌週月曜日午前中に配達という事になったが、午前中には配達されず15時頃だった。しかしそのとき私は在宅していなかったので、再度電話をかけて調整し、火曜日午前という事にした。火曜日の11時になっても配達されなかったので、午後から出なければいけなかったので、再度電話すると、30分後に持ってきた。

目の前で開封

目の前で開封

うれしい赤いホアドン

配達はlazada.vnのスタッフ。
前回のタブレットスタンドと同じく、目の前で開封して実物を確認し、その場で金を払う。
88万9000ドン(約4500円)で、90万ドン払ったら、お釣りが出て来なかった。(ただし細かいお釣りを省略すること自体は、ベトナムでは通常の商慣習である。)

特筆すべきはまずは領収書(ホアドン)が入っていたことである。それもレッドレシートと呼ばれる公式のもの。これでないと、会社としての経費精算ができないのだ。

そして、返品票が同封されていたこと。宛先がlazada.vnのホーチミン流通センターで、パッケージ番号がバーコードで表示されている。

赤いホアドン(公的領収書)

赤いホアドン(公的領収書)

今回のユーザシナリオの反省会

合格点。高い満足度。

lazada.vnでのショッピング経験を総括すると、現状では問題がない。全国無料配達はすごいと思うし、ホアドンもありがたい。そして返品票の存在は、内部のサプライチェーンマネジメントがきちんとシステム化されていることを示している。
配達プロセスに関しては、たしかにプロフェッショナルな感じがやや削がれるが、ベトナムにおいては問題のあるオペレーションではないし、これ以上を求めるのは、不適切な品質向上だろう。

lazada.vnの現在地点と未来

ベトナムe-Commerce市場の本質的問題点は零細すぎること

lazada.vnは、ベトナムe-Commerce市場の持つ構造的な問題を乗り越えるための、一つの模範解である。大規模化による価値向上だ。
ベトナムe-Commerce市場の構造的問題とは、売り手側が小資本すぎることだ。
資本がないから在庫がない。前回のタブレットスタンド購入の過程で見たとおり、ウェブページに載っていても客がいちいち在庫確認をしなければならない。
甚だしい場合は、そもそも在庫を持っていない。受注してから仕入れる。だから時間がかかるし、そもそもこれは小売業ではなく、買い物代行業だ。ここまでくれば、取り込み詐欺まであと一歩だ。

ベトナム版楽天市場であるchodientu.vnでは、ショップと会員(売り手と買い手)の比率が1:10だ。売り手が多すぎる。一店舗あたり10人の見込み客で商売が成り立つわけがないので、実際はほとんどのショップは「幽霊ショップ」ということになるだろう。しかし、見た目は区別のつかない立派な品揃えの店・・・・
この状況では、客は常に店を疑い、店はその取引コストを粗利率に上乗せするために、売り方がより機会主義的になる。

小売業の正攻法は大店舗

この市場の構造的欠陥を乗り越える方法のうち、正攻法は大店舗化である。
この正攻法を律儀に行ったのがlazada.vnである。
ドイツ資本を入れ、それを流通センターやシステムに投資し、かつ在庫を持つことで安定したデリバリとバイイングパワーを確保し、大規模プロモーションを行う。まさに正攻法である。

いずれ来る黒船

しかし、正攻法であるがゆえに、より大きな敵には数で負けてしまうという欠点を持つ。より大きな敵とはすなわち、Amazonだ。
品揃えと、安さと、在庫。それらは全て資本のより大きなほうが有利だ。プリンタの種類が50倍というのが全てを語っている。

lazada.vnではCanonのエントリクラスの新製品を国際価格で買える。それはすごい進歩だ。
しかし、その次は「A1用紙に印刷するためのプロッタが欲しい」「複写式帳票をまだ使っているのでドットインパクトが欲しい」といったニーズが出てくる。
今のかたちでは、lazada.vnはこれらのニーズを満たすことができないだろう。

現状でなぜlazada.vnがAmazonに勝てているかというと、そもそもAmazonがベトナムに進出していないからだ。ベトナムのe-Commerce市場は22億ドルしかない。Amazonが入るには小さすぎた。
しかし今、東南アジア全体で経済統合を図ろうとしている。Amazon ASEANが誕生してもおかしくない。むしろ、そういった状況こそを目指している。

これは杞憂であるかもしれない。関税が無くなったところで、例えばタイのイサーンに巨大配送センターが作られて、ホーチミンやハノイやヤンゴン(それぞれ直線距離で600km)に翌日配送するという未来は、ありえないようにも思う。
しかし、数年でそうなってしまうかもしれない。十数年かかるかもしれない。だとしたら、lazada.vnに残された時間は数年から十数年だ。

lazada.vnは、どういう戦略を取るだろうか

教科書的には、lazada.vnが取るべき戦略は下記のどれかになる。

  • 競合の一歩先を走り続ける
    • 敵がハノイ・ホーチミンに流通センターを作ったら、ダナンやフエに流通センターを作り、敵がさらにダナン・フエに作ったらより地方都市に作る。
    • ベトナム全体でそれだけの投資を回収するだけの市場規模があるのか?
  • カテゴリキラーを目指す
    • 日本のZoZoTownのように、アメリカのZapposのように、もしくは自然食品宅配のように、ある特定の分野に特化する。
    • 今の商品の売れ筋を細かく分析し、ベトナム独自のトレンドを掬いあげ、only oneとなるよう強化していく。
    • ベトナムの消費水準がそこまでのものになるかどうか。
  • 差別化する。
    • 決済方法や競合購入、浮貸、頒布やフラッシュマーケティングなど、先進国では成り立ちにくいサービスを追加していく。
    • パッケージそのままでは実装できないので自前でソフトウェア開発を行わなければいけない。
    • 開発プロジェクトのイニシアティブがないと推進できない。

コールセンターによる継続的改善

現実的には、これらの戦略の折衷案になるかと思う。
lazada.vnはベトナムだけではなく、タイやインドネシアやフィリピンでも展開している。サイトは国単位で運営し、流通センターは都市単位で設置していく。そして、それらの拠点がネットワークを形成して、プロッタのようなレア在庫を融通しあうという未来像だ。

「タイのイサーンに巨大配送センター」というのと違って、分散型のトポロジーとなるため、制御のためのトランザクションは増える。在庫問い合わせや日時変更など。そうなった時に、ユーザシナリオ上で最初に無理が出てくるのは配送だろう。

配送状況のモニタリングとネゴシエーションのために、客が配達担当者本人と電話でやり取りをするというのは、現実的ではあるが、できることが限度がある。今回の購入実験でも、発注から配達完了まで10回近いコールが行き交い、最終的に配送に1週間かかった。
まずは、コールセンターを設置し、電話を始め各種チャネルを集中して、円滑なデリバリを支援する必要がある。

コールセンターは、2番目と3番目の戦略を実行するための布石にもなる。このスター型トポロジはデータを中央に掬いあげるための仕組みでもある。定性、定量ともにデータを集めて、動いているカテゴリや、客のトラブルや戸惑いの多い手続きをモニタして、その継続的に改善策をローンチしていけば、いずれはAmazonとは全く違った、別種のサービスへと進化するだろう。

あと数年から十数年でここまで行くだろうか。それは分からないけど、lazada.vnやe-Commerceだけでなく、新興国のサービスはこのように進化するのりしろがある。(先進国のサービスはもうこれ以上大きく変わらないだろう。)それを見届けるのが楽しみだ。

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