ホーチミン市に駐車場を増やすためにITができること
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市場の失敗?
有料駐車場そのものは空き地に管理人がいれば成立する。土地以外になんのノウハウも設備投資もいらない、プリミティブな経営形態だ。だから、公定価格の規制さえ緩和すれば、あとは神の見えざる手によって駐車場は供給されていく・・・はずなのだが、それでうまくいくのならば、過去100年間にこの地球で駐車場不足は起こっていなかったはずだ。
げんに市場による価格調整メカニズムは失敗している。そこには何らかの原因があるはずだが、その追求は経済学の研究者に任せて、現実的に効果のある方法、及び、ITによって伸びしろを大きくできる方法を探ろう。
コインパーキングの市場育成
ワンコインの駐車場
日本には100円で一定時間(15分程度)借りられる駐車場がある。場所によって駐車料金は違う。100円で駐車できる時間が変わるのが特徴だ。(これはうまい発明だと思う。)タイムズ24社が最も有名だが、いくつかのチェーンがある。
Times24
http://www.times24.co.jp/
車が停まると自動的に車止めが作動し、駐車時間がカウントされる。駐車場にある自動販売機にコインを入れて精算したら、車止めが解除されるという仕組みだ。このシステムの運用まで一式含めてTimes24社に委託することができる。
このシステムは、車止めや自動精算機といった機械に注目してしまうが、大切なところはそこではない。ベトナムで類似の駐車場システムを導入すると考えると、なにも機械を使う必要はなく、人間が管理をして、同じことをすればよいだけだ。
コインパーキングの真のビジネスモデル
Times24の優れているところは、機械ではなくて、ビジネスモデルだ。Times24の事業目的は「遊休土地活用」であり、真の顧客は土地のオーナーである。
小さな土地を持っているオーナーの立場に立って考えてみよう。
自宅を更地にした程度の土地を持っている。その土地はいつかは売るなり建物を建てるなりするつもりだが、それまでの間遊ばせておくのももったいない。そのまま何もしなければ税金を払うだけのものだ。せっかくなので土地に金を稼がせたい。
とはいえ、恒久的な住居や店舗を作ってしまうと償却に時間がかかるし、簡易的な住居や店舗を作って貸し出したら管理や立ち退きでもめるかもしれない。それも嫌だ。では自分でその土地をうまく使った商売を始めるというのは、リスクが大きい。
小さな土地であっても、金をかけずに始めることができて、すぐに稼いで、損をすることがなく、後腐れなく直ぐに止めることができるもの。小地主は、そういう都合の良い「土地活用方法」がほしいのである。これが「真のニーズ」であり、それに応えたのがコインパーキングである。
駐車場利用の回転率をあげるためにITができること
コインパーキングの真のビジネスモデルをベトナムで応用するのならば、大切なのは、機械システムではない。車止めと精算を機械がやろうと人間がやろうと、それはどちらでもよい。それよりも、土地オーナーのニーズを満たせるかどうか、土地オーナーにその気になってもらえるかどうかである。
ホーチミンの小型の建物は、間口が狭く奥行きが深い、短冊形の形状をしている。これが一棟単位で更地になっても、車3〜4台程度の極小規模の駐車場にしかならないだろう。
そして、土地バブルは一段落したとはいえ、今後の経済成長に連動して土地の値段は上がり続けるだろうから、オーナーとしては土地を高く売る機会があればすぐに売りたいだろう。
このことからすると、ホーチミン市のコインパーキング(小規模駐車場)は、全体で見ると、沸騰するお湯の気泡のように、生じては消える流動的な姿になると思われる。
これは、利用者側からすると厄介だ。どこに駐車場があるか分からず、覚えたと思ったらすぐになくなる。これは使い勝手が悪い。そうなると使われなくなって、回転率が悪くなり、「すぐに稼いで、損をすることがない」というニーズを満たさなくなる。そうなってしまうと、土地オーナーにとって魅力がないから、駐車場は増えない。ゆえに渋滞が起こる。
ユーザ(駐車場利用者)にとっての利便性を向上することで回転率を上げるためにはどうすればよいか。ITを活用すべきはここである。
オープン・データ
具体的には、電子地図を利用したオープン型のリアルタイムの空き駐車場情報通知システムである。カーナビやスマホなどで、今どこの駐車場に空きがあるのかがすぐに分かり、地図上に表示するもの。
これ自体はそれほど難しいものではない。優秀なプログラマなら、必要なデータが揃っていれば、数日で作ってしまえるものだ。
問題は、「必要なデータが揃っていれば」の部分である。鍵は「オープン型」というところである。
まず空き情報をどうやって把握するかだが、コスト的に機械管理と人間管理が混在するだろうから、そのどちらでも同じ精度と同じスピードで入力できなければいけない。人間は携帯電話を使うだろう。スマホのアプリか、SMSを使う。機械の場合は、各社システムが混在することになるだろうから、それらと接続できなければいけない。
次に空き情報をユーザがどうやって手に入れるかだが、PCのブラウザ、カーナビ、スマホ、もしくはSMSといったものまで考える必要がある。 音声認識など、新しい技術が今後急速に実用化されるかもしれない。それも考慮する必要がある。
これらを考えると、空き駐車場情報は、データ規格とインターフェイスを公開して、だれでも使えるようなものにする必要がある。これが「オープン型」の意味である。
歴史は繰り返すか?
しかしこれは、実現するとなると意外と難しいだろう。
各駐車場事業者には、顧客を囲い込みたいというインセンティブが働く。空き駐車場情報を共有するするほうが全体の利益になると分かっていても、わざわざ競争相手に顧客を紹介するようなことはしたくないと思うのは当然である。これはジレンマだ。
経営規模が弱小のプレーヤばかりであるときは、共有の利益のほうが上回ると判断しやすいだろうけど、市場が寡占に近づくほどこのバランスは囲い込みに傾いてくる。小規模駐車場市場が立ち上がったとき、想像以上に機械の導入やマーケティング・キャンペーンが有効で、つまり資本やノウハウの蓄積の効果が高く、系列化やフランチャイズ化が早いテンポで進展するかもしれない。そのとき、この囲い込みが起こりうる。
コンピュータ業界、とくにインターネットよりも前の時代においては、この業界共通規格と自社規格のジレンマは頻繁に起こっていた。キャリアの長いIT業界人ならば、何種類もあるSCSIのコネクタの形状、DOSとMacの改行コードの違い、あるアプリケーションで作ったデータを別のアプリケーションで使うのがどれほど難しかったか、そういったことを懐かしく、かつ苛立たしく思い出すことができるだろう。
インターネット時代になって、こういったことが我々の日常であったことをすっかり忘れているが、それがまた形を変えて登場するのかもしれない。
そうならないためには、早い段階で規格の標準化の努力といったものが必要であると思う。
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