良いベトナム人エンジニアを育てるには中堅教育が鍵になる
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日本語 / Japanese
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ベトナム人エンジニアにとってスキル形成とはなにで、どうすればスキルの高いエンジニアを育てることができるか、識者を交えて実務者にヒアリングした。その結論は、入社3年目〜5年目の中堅層(の初期段階)での教育が大切だという事だった。
問題1:ジョブホッピング
それは責任感がないから?
ベトナム人を雇用するにあたって、日本人が異口同音に言うのが「すぐ辞める」ということである。それも理由のよくわかない辞め方をする。待遇や仕事の内容が不満だというのならば改善もできるのだが、そもそも理由がわからないという。
それを「仕事に対する責任感」といったもので説明する(というよりも嘆く)日本人も多い。普段から自己主張の強いタイプの社員が生意気なことを言って辞めていくのはまだ分かるが、普段から文句も言わず、従順に(しかしやや主体性がなく)仕事をしている社員が突然辞めてしまうので、心理的に、「裏切られた」「やはりベトナム人はわからない」という事になるのだろう。
社会制度としてのジョブホッピング
しかしそれはやや偏見が入っていると言わざるを得ない。これは社会の仕組みの違いであると考えるほうが健全だ。
日本は就職活動がはっきり分割されており、ある時までは学生、ある時からは社会人である。しかしベトナムではこの区別がはっきりせず、日本的に言えば就職活動が続いているということになる。
コネを使って情報を集め、実際に体験し、その体験を仲間内でシェアすることによって、良い仕事を探している。そういう形の就職活動が続いていると考えると、彼らの行動は合理的である。
下世話な例えで恐縮だが、合コンみたいなものだ。みたいなものというよりも、本質が同じだ。本質とは、情報資源が限定的な状況で、問題の自力救済を図ろうとすれば、こういう行動パターンにならざるを得ないということだ。国民性でもなければ善悪でもない。
この姿を、別の角度から見ると、ジョブ・ホッピングということになる。
3年〜5年で安定期
この「ジョブホッピング期」は3年〜5年で終わり「安定期」に入る。安定した職場を見つけ、安定した雇用関係を結ぶことになる。日本語の「落ち着く」という言葉のままである。その先は、日本人のエンジニアと大した違いはない。
実際に日本企業にヒアリングしてみても、ジョブホッピング期については、嘆く人もいれば、理解を示す人もいるが、総じて言えるのは「しょうがない」と諦めているという事である。実際にこれはしょうがない。社会の仕組みの問題なのだから、一個人や一企業がどうにかできることではない。
問題2:リーダーシップ
『それは自分の仕事ではありません』
社員教育という観点で見ると、肝心なのはこの次の、安定期の初期であるようだ。
日系企業のベトナム人エンジニア評を聞くと、「すぐ辞める」の次に出てくる問題が「すぐに『それは自分の仕事ではありません』という」ことだという。
自分の居場所や自分の職分や自分の得意分野を見つけた状態が「安定」なのだから、これはしょうがないことだとも言えるし、成熟するという事でもあるので悪いことばかりでもない。
しかし、少なくとも我々のIT業界においては、技術環境の変化が激しく、ビジネスの形は刻々と変わっていくものだから、30前で変な形で安定してもらっても困る。仕事の遊泳術にだけ長けてしまった若年寄エンジニアというのは、会社にとってみれば厄介なものだ。
したがって、優秀なエンジニアを育てるにはどうすればよいかは、安定期の最初に変な形で固着してしまわないようにして、頼れる中堅どころとして育てていくという事になる。
社会の若さに由来するロールモデルの欠如
具体的にどうすればいいのか。ここでベスト・プラクティスを見てみよう。うまくいっている会社は、どうやっているのだろうか。
私の見た限り、うまく行っている会社では、ある種の年齢階梯制が作動しているようだ。「10年選手」が「5年選手」を教え、「5年選手」が「3年選手」を教えるという形である。日本人にとってあまりにも当たり前のやり方なので、逆に虚をつかれるが、どうやらそういう昔の日本の村みたいなやり方が良いようだ。おそらくこれは、年長者を尊重するという東アジア文化の特徴であるのだろう。
ある識者はこれを分析して、社会の若さとロールモデルの欠如だといった。
ベトナム社会は若い人が多く、コンピュータなど現代的な産業の歴史が浅い。そのため、職場の最年長者といえども30代半ばであったりする。しかもジョブホッピング期があるので、組織プロパーとしてのスタートは遅い。したがって、どのように仕事をすれば良いのか、どのようになれば評価されるのか、ということが組織内に暗黙知として蓄積されていない。すなわちロールモデルの欠如だ。
「ベスト・プラクティス」においては、元々の文化に存在する年長者尊重をつかって、うまくロールモデルの欠如を補充しているからだという。
ベトナム人にとってのリーダーシップ
ベトナム人であろうと日本人であろうとアメリカ人であろうと、「この業界は技術環境が変化しやすい」という所与の条件は同じだ。環境が固定的であるのならば、地位やマニュアルという形で組織を硬直的にしても運用できる。ここで必要なのは監視者としてのマネージャだ。しかしそうではないのだから、必要なのは監視ではない。環境の変化にあわせて組織を変えていくリーダーである。ベトナム人であろうと日本人であろうとアメリカ人であろうと、必要なのはリーダーシップのあり方だと言える。
ではベトナムにおけるリーダーシップとはどのようなものであるのか?
あのような戦争を戦って勝った国で、リーダーシップが「ない」などということはありえない。
私の聞き及んだ範囲では、どうやらこれは、かなり融通無碍であるようだ。
軍隊のように階級が一つでも上ならばそれに従うわけでもないし、誕生日が一日でも早ければそれに従うというわけでもない。論理と雄弁でヒーローになりたがるというわけでもないし、場の空気を読みながらコンセンサスを積み上げるわけでもない。
実際にどうしているの? と聞くと、やはり年齢は考慮されるようだ。年齢が相対的に上のものはリーダーであることを期待される。しかしそれは、例えば韓国社会ほど硬性ではないようだ。加えて、実際にその問題に詳しい人(技術スキルの高い人)がリーダーとして期待されるという。そしてひとたびリーダーが決まると、そのリーダーには従順であるという。
考えてみればこれは随分と柔軟で現実的なリーダーシップのあり方だ。原則はあるが、その適用は融通無碍。なるほどゲリラ戦で戦争に勝ったわけだ。
教える人を教える
新たなる問題点
まとめよう。
- ベトナムのエンジニア育成において重要なのは、入社後3〜5年たった中堅層の初期におけるリーダーシップ育成である。
- 育成方法は基本的には年齢が上のものが下のものを教える年齢階梯性がよい。
- しかしその年齢原則はタイトに運用するのではなく、実務能力を加味して運用するのが良い。
ということになる。
しかしこのやり方は危険性も持っている。
これはわたしの経験上言えるのだが、このやり方は、上位者に教えてもらうことで下位者のスキルが上がると言うよりも、下位者に教えることによって上位者自身が成長するというように作用する。
このやり方は、とくにそれが個々人の安定を目指すものであるとき、派閥を作る力学そのものになる。派閥というものは自らの生存戦略として縁故主義を採用する。東アジアで、東南アジアで、どこでもみられる光景だ。
このやり方は、バランスが大切なのだ。
バランスをとるための外部の目
バランスを取るためには、外部からの目が必要になる。上位者「が」教育することが大切であるが、そのためには、上位者「を」教育する過程も組み込まないと、会社としてのバランスが崩れやすい。
上位者たる中堅どころに対して、「なにを教えるか」「どうやって教えるか」を教える役割が必要だ。
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