ホーチミン市を大渋滞都市にしないためにITができること
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駐車場のない街
2018年に大渋滞が発生すると予測する根拠は、車の台数そのものではない。車はよく売れるだろうけど、いきなり十倍になるわけではないだろう。それよりも、駐車場である。この街には、駐車場がほとんどないのだ。
この街の基本設計はフランス植民地時代になされた。
写真は市中心部の1区である。このような風情のある建物と、高い街路樹がホーチミン市の特徴である。東洋のパリというのも頷ける。街にはいたるところにカフェがあり、のんびりとベトナム・コーヒーを飲みながら、街行く人を眺めている・・・というのは観光客向けの決まり文句であって、実際にこの都市に住んでいて、市中心部のこのあたりに車で通勤したとすれば(写真左にある刀のような形状のビルは、ビテスコ・タワーというホーチミン市で最も高いビルである)、車を停める場所がないことに困惑するはずだ。
市の中心部を離れても事情は同じである。この写真は市中心部から西に6kmほど離れた11区。東京で言えば板橋区といったところ。特に珍しいものではなく、「ごくふつうのホーチミン市の一角」と言って良いだろう。低層の雑居ビルがびっしりと立ち並び、ここにも駐車場は影も形もない。
駐車場を作ろうにも、見ての通り空き地がない。日本のような木造一軒家ならば構造的にも地権的にも駐車場に作り変えることは容易だが、この雑居ビルを更地にするのは相当手間のかかることだろう。
ゆえに、車の台数の増加に比べて駐車場の供給が追いつかず、剰余自動車は路上駐車として溢れ、それが太い道路でも片側2車線程度の道路を塞いでしまい、大渋滞を引き起こす。おそらくこうなるだろう。
東洋の真珠を救え
対策と傾向としては下記のようなものが考えられる。
地下鉄などの都市高速交通機関
王道であろう。しかし時間がかかる。計画では第6路線まであり、うち1路線が日本のODAで着工している。開通は2018年の予定であるが、その時点で手遅れくさいが、のこり5路線がいつできるかは、誰も知らない。
公共交通機関の効率化
公共交通機関はバスがある。しかしあまり利用されていない。路線数も本数もあるが遅い。(治安が悪い、という話も聞いた。)
新市街の開発
郊外に車社会に適合した新市街を作ってしまう。今のホーチミン市内は旧市街となる。実際に、市の南部の7区にフーミーフンという新市街がある。もとは沼地だったそうだ。こういったものを市の外周に作っていく。
それはこの街が、東洋の真珠でもパリでもない、世界中のどこにでもある(特に中国にたくさんある)、味も素っ気もない街になるということだが、それは観光客の理屈であって、市民からすればこれもよいのだろう。
しかし、いいとか悪いとか言う前に、このやり方で最終的に人口が新市街に移転するには、数十年かかるだろう。
市内への車の乗り入れ制限
シンガポールでやった。奇数日はナンバープレートが奇数の車だけ乗り入れができるというもの。一定の効果は出ると思うが、もともと市内移動なのだから、郊外からの乗り入れ制限はあまり意味はなかろう。
駐車場設置への政策誘導
税制の優遇や地権整理の効率化など。しかしこれがいかに難しいかは言うまでもない。日本の道路開発とおなじようなやり方とすれば、30年〜50年はかかる。中国のように政府の強権でやってしまう手もあるが、おそらくベトナム政府はそういうことをしないのではないかと思う。
自動車への非関税障壁
関税がなくなろうとも、なんとかして自動車所有の総コストを高くして、自動車台数の伸びを抑制する。車検、車庫証明、非常に高い税金/保険、非常に高い免許取得・更新コスト、カフカの小説のようなお役所仕事・・・・などなど。しかし、関税同盟を組むにあたって、こんな抜け道が通用するほど今の時代は甘くない。できるのは、せいぜい最後のカフカ流だけだろう。
こうして考えてみると、特効薬はないことが分かる。新市街や地下鉄は王道かつ抜本的だが、時間がかかりすぎる。その他の手段は効果が薄い。
世界中の多くの都市がたどってきた渋滞地獄と、これ以上の大気汚染への道を、なすすべもなく滑り落ちていくのか。
滑り落ちた挙句に誕生するのが、空洞化した市内と、世界中のどこにでもあるのっぺらぼうの街というのでは、悲しすぎる。
悲しいのは嫌だ。次頁では、ITを使った解決方法を考えてみる。
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