エンジニア人生双六(ベトナム編)
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コンピュータエンジニアにとってスキルを身につけることは大切であるが、ここベトナムでは、エンジニアはスキルをどのように考え、どのようなキャリアを積んでいるのだろうか。キャリアの出発点たる大学新卒の就職活動は、いったいどのように行われているのかを考察してみる。
エンジニアとスキル
コンピュータ・エンジニアとスキルは切っても切り離せない関係にある。我々はスキルを売って金に変えている。「身分で食っているのではなく、腕っ節で食っている」というのは、我々の職業人的な矜持である。
とは言うものの、やはり世の中は表があれば裏もある。実際は身分で食べていくほうが楽だったりする。例えば自分よりも立場の弱い人間を派遣して中抜きするとか。
「それの何が悪い! 矜持で飯が食えるのか。」と開き直られると返す言葉がないが、とりあえずここは、「スキルは大切だ」ということで話を進めたい。
誰もが最初からスキルがあるわけではない。勉強しなければ習得できず、たえずアップデートしていかないと古びてしまう。
たしかに、スキル軽視論はある。ごくたまに早熟の天才は出てくるし、基礎原理を理解していれば応用に振り回されないはずだ。しかしそれは例外と思っておいたほうがいいだろう。
やはりコンピュータ・エンジニアに必要なものは、地道なスキルの研鑽である。それは普遍的なはずなので、場所がベトナムであっても同じはずだ。ベトナムではコンピュータ・エンジニアのスキルはどのようなものであるのかを、双六風に時間を追ってみていこう。まずは大学から就職するまで。
大学生から社会人へ
日本の大学進学率は50.8%(2013年)で、就職内定率は82.9%(2013年)である。
ベトナムの大学進学率は約10%で(2009年)、新卒就職率は約80%という。大学入学者がまだ少なく、同世代のエリートという感じを残しているが、入ってしまえば、その後の就職に関しては日本と似たようなものだといえる。
ところで、この就職できなかった20%はその後どうなるのだろうか。
日本の場合だと、就職浪人、非正規雇用につく、無職・ニートになる、親の仕事を継ぐ(可能ならば)といった選択肢が考えられる。ベトナム人学生にヒアリングしてみたところ、半数が進学、残る半数がアルバイトをしながら職探しをするということだった。後者は「就職浪人」ということになるだろう。
ここで就職活動について説明をしておこう。
ベトナムの就職活動は、日本のそれと同じ形式ではない。基本的には、大学生の間は勉強し、卒業してから仕事を探す。もっとも例外はあるものであり、在学中に日本の就職活動と同じようなことをしている事例もあったし、大学に籍だけ置いた状態(週1時間程度出席)にしてフルタイムに近い労働を行いつつ、転職活動をしているという事例もあった。
今までは、イメージをつかみやすくするために新卒就職率約80%や就職浪人という言葉を使ったが、実際は日本と同じではなく、学生と社会人の区別や、新卒就職と転職の違いは、かなり曖昧であるといえる。そもそも就職活動という言葉や概念がないのであり、就職活動という人生の節目の通過儀礼じみたことをしているのではなく、社会人の転職のようなことを学生の頃からしていると思うほうが良い。
ベトナム人学生はどうやって就職先を探すのか
ベトナムの学生は、どのようにして就職すべき会社を見つけるのだろうか。統計は手に入らなかったが、考えられる方法を列挙し、それに対してどのようなイメージを持っているかをヒアリングしてみた。
大学の紹介
- 大学は就職を斡旋してくれない。
- 大学には就職課といったものはない。
- 大学で就職に役に立つのは卒業証書だけである。
教授の紹介
- 理系の学生の1割ていどはこの方法で就職する。
- 理系の学生は40%なので、全学生の4%がこの方法ということになる。
- 世の中的にも、これは筋の良い就職方法と思われている。
コネ
- 学生の1/4ぐらいはこれによる。
- ただし、この場合のコネとは、友人の紹介も入る。
- 日本的な「親の社会的影響力の利用」という意味の「コネ」は、学生全体の10%ぐらいだと思う。
- 世の中的には、これは悪いこととか不正なこととは思われていない。むしろ、人品を保証してくれるので、企業も良いことだと思っている。
- ただし、上記の意見に対し、「私の親はコネに反対している。自分の力で車内の中の居場所を探すべきだと主張している」という意見もあったことを付加しておく。
試験(公務員試験や資格試験など)
- 国営企業や外国企業はこれを求める。
- 学生はこのスコアを取るのに熱心である。
- なぜなら、コネで就職先を紹介されたとしても、学歴や外国語能力や資格試験のスコアでスクリーニングされるから。
インターン
- 3年生から4年生のころに行う。
- 大学によっては全員行う。
- インターンというが、実際は会社見学だけという場合もある。
- 就職に結びつくかは分からない。
(リクルートやマイナビのような)民間のマッチング
- 少しの学生だけしか使っていない。
- 登録だけしても、どこにでもある情報なので真剣に見ていない。
- あまりよい就職先の見つけ方とは思われていない。
- 自分の専門性ややりたいことを活かせると思えない。
進化系コネ就職
日本では「コネ」はネガティブな印象を持たれている。例えば大企業の同期入社集団で、「あいつはコネで入社した」ということを言われるならば、それは確実に悪口となる。しかしベトナムでは、ポジティブな印象を持たれており、かつ、友人同士での紹介や情報共有もここに入り、資格試験のスコアを併用するなど、オープンかつ透明に「コネの構築と活用」が行われているといえる。
ベトナムの就職事情は今後どうなるのかは、筆者には分からないし、考えてもしかたのないことであるように思う。
しかし、コンピュータ・エンジニアのスキルという出発点に戻るのなら、この進化したコネ就職というのは、悪くない方法だと思う。なぜなら、実際にスキルを積んだエンジニアが転職をする場合は、このような形の転職が現実的だからだ。(ある程度のスキルを積んだものの転職での話であり、新卒者の就職に向いた方法かどうかは、議論の余地があるが・・・)
コネによる転職が、人材市場における適切な需給の一致を生み出しスキル向上へとつながるか、それとも情実主義と機会主義に陥りスキル蓄積の機会を奪うものになるかは、どちらかを断定することはできない。どちらにもなる可能性がある。それを分けるものは、コネといえども資格試験の結果が必要だというところだろう。
なぜそう考えるかというと、それは技術の進化の恩恵を受けられるからだ。
日本のようなマッチング型の就職活動は、データベースの進化の恩恵を受けた。日本の就職活動のあり方は、太古の昔から続く民族の伝統でもなんでもなく、1980年台から90年台にかけて一気に普及したものだということを忘れてはならない。その当時、コンピュータの小型化とデータベースの進化が起こり、数十万人の学生と数万の会社をマッチングさせるということが技術的・コスト的・速度的に可能になった。だからこのような形になった。
今、急速な進化をしている分野はデータベースではなく、インターネットだ。それも、ソーシャルな使い方であり、無料でビデオ会議ができるぐらいのものだ。数十万人の学生と数万の会社をマッチングさせるのにSQLを使うのではなく、ソーシャルメディアを使うというのは、現実的な方法であると思うし、それが可能になるようにさらに進化していくだろう。
しかし、ソーシャルメディアを使う方法は、マッチングには良いが、スクリーニングには向いていない。そこは別の仕組みが必要になる。それは、モノサシとしての、客観的な能力検定のスコアだ。
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